珈琲の基本

その酸味、実は酸化かも⁈ 本当は美味しい「珈琲の酸味」

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珈琲豆の酸化はNG

珈琲をよく召し上がるという方に好みをお尋ねすると、「酸味のある珈琲は苦手!」という方が、とても多くて驚かされます。 でも、詳しくお話を伺うと、実は珈琲の酸味が苦手なのではなく、酸化した豆のすっぱさを酸味と勘違いしている方がほとんどです。

では、酸味のある珈琲と酸化した豆で淹れた珈琲は、どう違うのでしょうか? 珈琲の美味しさをうみだすために欠くことのできない、珈琲の「酸味」について解説します。

珈琲の酸味について知っておきたい2つのこと

珈琲の酸味について考える際に、ぜひ知っておきたいことがあります。それは、「酸味を表す3つの用語」と「酸味が珈琲に不可欠な風味であること」の2点です。まずは、その2点を押えておきましょう。

珈琲の評価対象となる3つの酸味表現を知る

珈琲豆の格付けや、カップテイスティングの評価基準として、珈琲の酸味は次の3つで表現されることが多いです。 酸味のある珈琲と酸化した豆 の違いを端的に表していますので、まずはこの3つの表現を覚えておきましょう。

酸 味 表 現 特   徴

好ましい酸味

(良い酸味)

フルーティ 植物としてのコーヒー豆が本来持っている酸味。イメージとしては、フルーツを食べた後に感じるような爽やかな酸味である

嫌われる酸味

(悪い酸味)

サワーテイスト 発酵したヨーグルトのような酸っぱさを感じさせる酸味。例外もあるが、酸化が進んだものであることが多い
ビネガーテイスト 舌を刺すような酸味。サワーテイストより酸味が強く、例外もあるが、多くは酸化が進んでいるようだ。体によくないとも言われる。  

酸味は美味しい珈琲に不可欠な風味である

珈琲豆を選ぶ際に、多くの人は、甘味・酸味・苦み・コク・香りの5つの要素を考慮し、これらのバランスで好みの味を探していきます。5つの要素は1つとして欠けてよいものはなく、どれも美味しい珈琲を飲むためには必要不可欠な風味です。多くの珈琲専門店が、これらの要素を使って、珈琲の個性を表現しているのはそのためです。

5つの要素は、いずれも珈琲の味を左右する大切なものですが、中でも酸味は、口に含んだ時に1番先に感じる風味なので、最初のひと口でその珈琲の印象を左右してしまうほど影響力があります。もし運悪く、飲んだ珈琲がサワー・テイストやビネガー・テイストを持った酸化豆で淹れたものであれば、酸味が嫌いになってしまうのもうなずけます。

ただし、酸味の感じ方は、飲む時の唾液の量によっても変化すると言われています。実際に、同じ豆でも飲む人の体調や飲む時間などによって、感じ方が変わってきます。こういったことを総合的にみていくと、酸味が珈琲の5つの要素の中で、最も繊細な風味であるのは間違いありません。

良い酸味はフルーティで豆本来の酸味が活かされている

ここまでに、酸味には多くの人に好まれ愛される良い酸味と、顔をしかめて嫌われるような悪い酸味があることがわかりました。そこでここからは、良し悪し2つの酸味について、もう少し詳しく見てみましょう。

まずは、良い酸味についてですが、良い酸味はフルーティで爽やかな印象を残します。それは、豆が持つ本来の酸味が活かされている証拠です。

珈琲豆が本来持っている酸味

珈琲の酸味の正体は、言うまでもなく酸ですが、豆に含まれる酸には様々な種類があって、それぞれに風味の違いがあります。ここでは、珈琲豆に含まれる代表的な酸とその特徴をご紹介します。

酸の種類

珈琲豆以外の
含有食品の例

特 徴 な ど

クエン酸

レモン・ライムなどの柑橘類全般 爽やかな酸味を持つ。標高の高い場所で栽培された豆によくあらわれる。
キナ酸 クランベリーなど 収斂味(しゅうれんみ)といわれる味覚神経を収斂させることによる刺激を持つ酸。渋みとなってあらわれ、深煎りの段階まで弱まることがない。
リンゴ酸 ルバーブ・キウイ・マスカットなど 未熟果実の味などとも言われ、青りんごに似た味を持つ。珈琲豆では、ルワンダなどの東アフリカ産の一部の豆に特有の酸味。
リン酸

コーラ(酸味料として)

リン酸塩として食品添加物に用いられる。SL(エスエル)種と呼ばれるケニア特有の豆に目立ってあらわれる。
酢酸 ビネガーなど 刺激臭と強い酸味を持つため、強すぎると不快な酸っぱさになることがある。キナ酸と同じく深煎りの段階まで弱まらない。

上表には、珈琲には適さないような酸も含まれています。しかし、それらの酸も焙煎や淹れ方の工夫などによって、強く出すぎないようにコントロールすることが可能です。

このように、一見不向きであっても、コントロールしながら上手に活かすことができるのが、豆が本来持っている酸味であり、酸化した豆とは一線を画す部分なのです。

珈琲の酸味はフルーツの風味で表現される

たくさんのフルーツ

先の表でもフルーツの名前がたびたび登場しましたが、美味しいと感じられる珈琲の酸味はしばしば果物に例えられます。それらの多くは、SCA( Specialty Coffee Assosiation)が公開している 「Coffee Taster’s Flavor Wheel 」を参考にしているようです。

例えば、リンゴ・グレープフルーツ・レモンといった果物をはじめ、いちごやブドウのような果物もフルーティな酸味の例えとして使われています。「いちごのような酸味」などその表現だけでは、酸味のイメージが湧きにくい場合、上記の Coffee Taster’s Flavor Wheel を参考にしていただくと、酸味の個性やそれぞれの違い、傾向などがわかりやすいでしょう。

Coffee Taster’s Flavor Wheel は珈琲の味覚表現のために長年にわたり世界的に利用されてきたツールです。しかし、作成に使った珈琲のサンプル数があまりに少ないなどの理由から、 近年ではThe coffee taster’s flavor tree のような新しいツールも生まれてきています。そういった新ツールも合わせて利用すると、珈琲の酸味についてもより一層理解が深まることでしょう。

悪い酸味は酸化によって生まれた劣化現象である

珈琲豆の酸化はNG

次に、いわゆる悪い酸味についてみてみましょう。悪い酸味の多くは、豆が持つ本来の酸味とは別物で、酸化によって経年劣化が起こり、味が悪くなって舌に独特の酸っぱさを残します。

多くの方は、酸化と聞くと「劣化する」とか「ダメージをうける」といったマイナスの印象があると思いますが、例えば、紅茶が茶葉を酸化発酵させたものであるように、酸化が必ずしも劣化につながると言う訳ではありません。

しかし、珈琲豆の場合は、熱や光の影響により味や風味が著しく変化します。これは、焙煎後の珈琲豆が酸化劣化を生じやすい食品成分( 脂質・アミノ酸・フレーバー成分 など)を含んでいるからです。 これらの食品成分の酸化劣化により、珈琲に酸っぱさや雑味が生まれ、独特の香りも抜けてしまうといった変化が生じます。

面白いことに、この酸化による劣化は、珈琲豆に加工を加えるたびに酸化の速度が増していきます。つまり生豆よりも焙煎した豆、焙煎したままの豆よりも挽いて粉にしたもの、珈琲粉よりも抽出した珈琲の方が酸化のスピードが速くなるという具合です。

酸化のスピード: 生豆 < 焙煎豆  <  珈琲粉  <  飲料になった珈琲

生豆のままなら、保存環境が良ければ複数月の保存でも著しい酸化はありませんが、珈琲を淹れてしまうとわずか30分でも酸化が進み、格段に不味い珈琲になってしまいます。

上質な酸味を味わうために覚えておきたいキーワード

キーワード1:アフリカ産珈琲豆

キリマンの故郷 Mt.Kilimanjero

前掲の「酸の種類」の表でも見ていただいたように、アフリカ産の珈琲豆は酸の含有量が多く、もともとの味として酸味のあるものが多いという特徴があります。そこで、酸味のある豆を選びたい時には、まずはアフリカ産の豆を試してみてください。

参考として、美味しさに定評のあるアフリカ産の豆をいくつか挙げておきます。

参考:アフリカ産で爽やかな酸味を楽しめる珈琲豆の例

産 出 国 銘 柄 味 の 特 徴 な ど  
タンザニア スノートップ キリマンジェロの中でもひときわ大粒で、気候条件に恵まれたアルーシャ地方の高地だけに産するごく少量の珈琲豆。最高級のキリマンと称される逸品  
エーデルワイス 柔らかな酸味と甘味、豊かな香りを有するブルボン種が主体の珈琲豆。珈琲豆の栽培に最適な環境と優れた品質管理のもとで栽培される。さっぱりとした後口も魅力の珈琲  
エチオピア モカ イルガチェフ エチオピアコーヒーの最高傑作と称される珈琲。酸味と同時に上品な甘味を持ち、他では味わえないバランスのよい珈琲となっている  
イエメン セイル ハラズ モカ 爽やかですっきりした酸味の中に、しっかりとした甘みも感じられる豊かな味わいの珈琲。フローラルな甘めの香りも楽しめる  
ケニア ルイスグラシア 肥沃な火山灰土壌に育ったこの豆は、深いコク、上質な酸味、芳醇なアロマと3拍子そろったケニアを代表する珈琲豆である  

キーワード2:浅煎り

珈琲の生豆と焙煎度の違う豆

酸味は、焙煎度合いによってもあらわれ方が変わります。浅く炒ると、豆本来の酸味が最も強くあらわれます。これは、珈琲に含まれるポリフェノールが、焙煎によってキナ酸とカフェイン酸に分解されることと、クエン酸やリンゴ酸などの酸が、浅煎りの段階で最高濃度となり、その後少しづつ減っていくことによります。

いつもの珈琲豆も、浅煎りにするだけで、同じ豆とは思えないほど香味が変わることもしばしばです。例えば、前項でご紹介したモカ イルガチェフなどは、浅煎りでウォータードリップで抽出していただくと、まるでワインのような風味を醸し出します。

ただし、浅煎りで酸味が強い豆は、珈琲にした時のボディが軽くなる傾向がありますので、その点は覚えておくとよいでしょう。

酸化した豆を買わない・飲まないための対策

珈琲豆の専門店以外では、豆を購入する時に、その豆を試飲するどころか遮光のために中の豆が見えない不透明なパッケージも多く、その豆の姿を見ることさえできないことが多いものです。

そのような状況の中で、酸化した豆を買わずに済む方法はあるのでしょうか。購入した豆の酸化を遅らせる保存法とともに考えます。

豆の管理と回転が良い店を見つける

「珈琲豆を買う時は、香りのよい店で買う」というお客様がいらっしゃいますが、香りが強い店は少しだけ注意が必要です。珈琲豆は焙煎直後から香りの成分を放出し始めます。そのため保管や管理の状況が悪いと香りの成分がどんどん出ていってしまい、結果として早期に豆の香りが抜けてしまいます。

喫茶店を併設している 場合は、ある程度香りが強く残るため一概には言えませんが、香りが強いかどうかよりも、日光が当たらず湿度の高くない場所で、できるだけ密閉に近い状態で豆が保存されているかどうかをチェックすることが大切です。

また、深煎り焙煎の豆は別として、油が浮いているような豆ばかりが並んでいたら焙煎日を確認しましょう。できればどれほど長くても、焙煎日から1週間以内の豆をお買い求めいただくことをおすすめします。 その意味で、お客さまがコンスタントに来店し、余剰在庫を持たず、商品の回転率の良い店を見つけられると良いですね。

最近は、通販店も含めご注文をいただいてから焙煎する店も増えてきました。そのような店では、酸化していないフレッシュな豆を入手できます。焙煎士とよくコミュニケーションをとることで、お好みの焙煎度合いを伝えて焙煎してもらえる楽しみも生まれます。

珈琲豆の 酸化を遅らせる正しい保存法を知る

珈琲豆の保存についての疑問

酸化とは、物質と酸素との結合反応ですから、珈琲豆も焙煎直後から空気に触れると酸化が進んでいきます。その酸化をなるべく遅らせるには、

  1. 珈琲豆の表面積をできるだけ小さくすると同時に、空気に触れないようにする
  2. 温度をできるだけ低く保ち、反応を遅らせる
  3. 金属製の容器を避け、 触媒作用による酸化を遅らせる

などの方法が考えられます。

実際には、珈琲豆は、 粉で1週間、豆なら3週間くらいまでは 密閉容器に入れ日の当たらない場所で常温保存が可能です。とはいえ、 やはり豆の表面積を最小に保つという意味では、豆のままで保存し、飲む時に挽いていただくのがよいでしょう。

また、もし上記の期間を超えて保存しなければならない場合は、密閉容器のまま冷凍庫で保存して下さい。0℃以下で保存することで、酸化を遅らせることができます。

容器は、茶筒のような金属製のものを避け、ガラス製キャニスターのような密閉度合いの高いものをおすすめします。同じキャニスターでも、100均等で売られているものの中には、密閉が不十分なものもありますので、手近に密閉できる容器がない場合は、ジップロックのような冷凍用の保存袋で代用する方が良いでしょう。

なお、焙煎後の豆は、含有水分量が極めて低いので、冷凍庫から出してすぐでも、解凍せずにそのまま使えます。豆の場合も、そのまますぐにミルで挽くことができますので、ご心配なく。

ただし、室温が高いと、わずかな時間常温に置いておくだけでも、結露のような状態が起こりかねませんので、冷凍庫からの出し入れはできる限り手早くお願いします。

良い酸味と出会って変わる珈琲ライフ

珈琲の酸味は、酸っぱさとは明らかに違います。「酸味のある珈琲は嫌い」と決めつけるのでなく、本記事を参考に上質で爽やかな本物の酸味を探してみてください。

そんな良い酸味に出会えれば、あなたの珈琲ライフがなお一層豊かになること間違いありません。

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