珈琲豆は、その多くがコーヒーベルトと呼ばれる北回帰線と南回帰線に挟まれた地域(詳しくは後述)で生産されています。 そして、それらの珈琲豆は、それぞれの産地の気候風土によって、品質や香味に際立った個性があります。
そこでこの記事では、 美味しい豆選びのための重要なファクターの1つとして、産地ごとの豆の特徴をご紹介します。 産地による豆の個性の違いを知れば、好みの豆を選ぶのがぐっと楽になると同時に、ハズレのない豆選びができるようになるでしょう。
珈琲豆の栽培に適した場所とは?
コーヒーノキは、病気に弱く意外と育てるのが難しい植物です。コーヒーノキを上手に育てるには、雨・日当たり・生育温度・土質の4つの面で適した条件をクリアしなければなりません。
それぞれの条件を詳しく見てみましょう。
降雨量より大切な「雨季」と「乾季」
降雨量は年間 1800mm~2500mm のところが良いとされています。気象庁によれば、2018年の日本の年間降水量は 1455.5mmとのことですので、感覚的には日本よりも少し雨の多い場所が珈琲栽培には適しているようです。
しかし、実際には降雨量の多寡よりも雨の降り方の方が重要で、 雨季と乾季があり、コーヒーノキの成長期に雨が多く、収獲期に乾燥しているという環境が なければなりません。
強すぎる日差しは珈琲栽培の敵⁈
コーヒーノキも植物ですから、光合成のために日当たりの良い場所を好みます。けれども、直射日光が強すぎると、元気がなくなり、ひどい時には葉焼けをおこし枯れてしまいます。
そこで、コーヒー農園の中には、強い直射日光から コーヒーノキを 守るために敢えて他の樹木を植えて適度な日陰を作って栽培しているところもあります。この日蔭用の木をシェードツリーと呼んでいます。
強すぎる直射日光は、コーヒー栽培の敵と言ってもよいでしょう。
コーヒーノキは気温の好みがとてもわがまま!
コーヒーノキは、生育気温に関しては好みがかなりわがままです。栽培に適しているのは、日中の平均気温が20℃前後で、年較差の少ないところといわれます。それに加えて、日較差が大きいと、その温度差から身を守ろうとするため、硬く引き締まった良質な豆が育ちます。
そのため、名産地として知られているのは、内陸で標高の高いエリアが多いようです。ただ、アラビカ種は 霜に弱いので、標高の高すぎるところでは育ちません。
コーヒーノキの気温の好みが「わがまま」だと言われるのは、上記のような理由があるからです。
コーヒーノキにとって最高の土質は肥沃で水はけのよい火山灰地
最後に忘れてならないのは、土壌の質です。コーヒーノキの栽培には、火山灰地が適していると言われます。その理由として
- 肥料の3要素である窒素・リン酸・カリウムを多く含んでいる
- 水はけがよい
- 土壌が柔らかく、根の進捗が良好である
- 酸性の火山岩に由来する土壌により、土質がコーヒーノキが好むやや酸性のことが多い
などが挙げられます。
以上の4つの条件を満たす場所が、 北回帰線と南回帰線に挟まれたコーヒーベルトと呼ばれる地域に集中しています。そして、世界の珈琲5大産地の全てが このコーヒーベルトの中に、位置しています。
コーヒーベルトを俯瞰する
まずは、上図をご覧ください。黄色い線で描かれた北回帰線と南回帰線に挟まれたエリア(コーヒーベルト内)に、世界の主な珈琲豆産出国が集中しているのがわかります。
この産出国をエリアごとに5つの地域に分けたものが、コーヒーの5大産地と言われるエリアです。
具体的には、アフリカ・中近東、南米、中米、カリブ海沿岸、アジアの5つの地域を指します。中米とカリブ海沿岸は、隣同士のごく近い地域ですが、産出されるコーヒー豆の味に際立った違いがあるため、異なる地域として数えられています。
ここでは、それぞれの地域の大まかな味の違いやその特徴などを押さえておきましょう。
地域名 | 主な産出国 | 生産される豆の特徴など |
アフリカ 中近東 |
ケニア・タンザニア・エチオピア・ルワンダ・イエメンなど | フルーティな酸味と妖艶なアロマに特徴あり。スパイスのような香りを持つものも。 |
南米 | ブラジル・コロンビア・ペルーなど | 酸味・甘味・コクのバランスが取れた珈琲らしい珈琲を産出する |
中米 | メキシコ・グァテマラ・エルサルバドル・コスタリカ・パナマ・ホンジュラスなど | まろやかで繊細な口当たりを持ち、さっぱりとした風味があってたいへん飲みやすい |
カリブ海沿岸 | キューバ・ジャマイカなど | 中米産珈琲によく似ているが、コクが加わった風味に特徴がある |
アジア | インドネシア・ベトナム・タイ・パプアニューギニア・インドなど |
苦味を楽しみたい人におすすめのエリア。ロブスタ種の生産が多かったが、変わりつつある |
それでは、全体がざっと見渡せたところで、次からは各地域の主要な産出国について詳しく見ていきましょう。
珈琲の故郷!アフリカ・中近東の産出国
珈琲の故郷とされるアフリカ・中近東エリアのコーヒーは、個性的な味を持つものが多く艶のある味と評する人もいます。日本でも、そのフルーティな酸味と魅惑的なアロマのファンも増えてきています。
エチオピア産のモカ・イルガチェフのように、焙煎の度合いによって全く違う顔を見せる珈琲もあり、珈琲通の間ではアフリカ産コーヒーの人気や注目度が高まっています。
ここでは、エチオピア・タンザニア・ケニア・イエメンの4ヵ国についてご紹介します。
珈琲発祥の地エチオピア
アラビカコーヒー発祥の地と言われているエチオピアは、古くから珈琲豆の栽培が行われている伝統国です。しかし内陸国のため、珈琲豆の輸出はイエメンのモカ港から行われていたため、モカ・イルガチェフなど上質な豆を産出しながら、一部の珈琲好きな方を除き、一般的には珈琲の産地としての知名度は高くないようです。爽やかな味と香りに特徴があり、その風味はしばしばワインやスパイスなどに例えられます。
キリマンジャロの国タンザニア
キリマンジャロで有名なタンザニアのコーヒーは、その名の通りアフリカ最高峰のキリマンジャロ山麓が主な産地です。アフリカの他の地域と同様に、生産者は小規模農家がほとんどですが、グループで水洗設備を共有するなどして、豆の高品質化を進めています。
アフリカ第2の産出国ケニア
ケニアは、スペシャルティコーヒーの世界にとって、欠くことのできない存在です。特にヨーロッパでの人気が高く高品質の豆として高値で取引されています。日本でも上品な酸味を味わえる珈琲として、注目が集まっています。雨季が2度あるため収穫も年2回行われますが、11月から翌年にかけて収穫されるメインクロップの評価が特に高いようです。
中東の珈琲と言えばイエメン
イエメンのコーヒーは、珈琲豆の積出港であったモカ港にちなんで「モカ」と呼ばれています。(モカとは特定の品種名ではなく、モカ港から積み出された珈琲豆の総称です)イエメンでは古くから珈琲の栽培がおこなわれており、アラビカ種発祥の地であるエチオピアに次ぐ歴史があると緒言われています。モカ特有の花のような華やかな香りとフルーツのような酸味を持ち、気品を感じさせる豆もありますが、欠点豆も多く強い個性があるため、美味しさを引き出すためには高い焙煎技術が必要で、難度の高い豆です。
質量ともに他地域を凌駕する南米産珈琲
南米は、世界のアラビカ種のコーヒー生産の過半数を占めています。しかも、スペシャルティビーンズを生産する農園が、ブラジルだけでも50以上あるといわれるほどですし、高品質の豆を産するコロンビアは、言わずもがなといったところでしょう。
風味の面では、酸味は柔らかで、まろやかな甘味としっかりとしたコクを持つものが多いようです。
最近では、農園ごとに特徴のある豆が数多く栽培されていますが、いずれも味のバランスに優れていて、スタンダードな珈琲らしい珈琲を知るのには最適な産地でもあります。
ここでは、南米を代表するブラジルとコロンビアの豆についてみてみましょう。
世界で高い人気を誇るコロンビア
コロンビアは以前からまろやかな甘味とコクに特徴がありましたが、最近では甘い香りと上品な酸味を持つものも増えてきました。エメラルドマウンテンの台頭とともに一般の方への知名度も上がり、現在では 環境保護にも配慮し、上質な珈琲豆の産出国として押しも押されもしない地位を築いています。
珈琲王国ブラジル
ブラジルは国土が広大で、地域によって生育環境や地理的条件が異なるため、その特徴をひと言であらわすのは難しいほどバラエティ豊かな味が、しいて言えば他国に比べて酸味が少なく、柔らかな風味のものが多いように思います。豆の品質についても同様で、ピンからキリまでといった印象がありますが、世界一のコーヒー大国であることは間違いないでしょう。
小規模農園が中心の中米産珈琲
中米の産出国は、国土も狭く1ケ国ごとのシェアは決して多くはありませんが、地域全体で見ると、一大生産エリアと言ってもよい産出量を誇っています。南米のような大規模農園は少ないのですが、小規模ながら農園ごとにバラエティ豊かなテイストを持っています。
その多くは、さっぱりと飲みやすい風味を持ち、メキシコ産の ベラクルースルビーに代表されるような まろやかで繊細な口当たりに特徴があります。
ここでは、メキシコ・グアテマラ・パナマのコーヒーをご紹介します。
メキシコ
メキシコがスペインの植民地時代であったころ、スペイン人がコーヒーノキを移植したのがコーヒー栽培の始まりだと言われます。香りが高く後味のすっきりした中米産らしい特徴を持つ珈琲が多く見られます。 高品質の珈琲豆も多く産出されており、例えばメキシコ南部に位置するベラクルース 州コアテペック産の豆は、 世界でも最高級珈琲の1つとして高い評価を得ています。
グアテマラ
グアテマラは、シェードツリーという日陰を作るための高い木の下でコーヒーの栽培を行っていることが多い点に特徴があります。当地のコーヒーは、香りの高いものが多くブレンドのベースとして重宝されています。近年スペシャルティコーヒーの生産に力を入れる生産者も増え、農園ごとの差別化も進んでいます。
パナマ
珈琲産地としてパナマが注目を集めるようになったのは、2004年のパナマ国際品評会でゲイシャ種が一大旋風を巻き起こしてからでしょう。もともと肥沃な土壌と標高の高さを持つ農園が多く、豊かな甘さと上品な香り、ほのかな酸味を持つ豆が高い評価を得ています。
日本人好みの風味を持つカリブ海沿岸産珈琲
カリブ海沿岸産のコーヒーは、ひと言で言うと中米産のコーヒーにコクを加えたような風味を持ち、日本人好みの味を持つものが多くあります。
エリアとしては、中米産コーヒーと合わせて数えられることもありますが、風味の点では中米産のものとはかなり異なると言えるでしょう。世界のコーヒーの中では、むしろオセアニアのパプア・ニューギニア産のものがよりカリブ海沿岸産のものに近く、同じグループとして紹介されることもしばしばです。
気候のパターンがジャマイカに酷似しているため、味もまたよく似てくると言われています。
ここでは、カリブ海沿岸に位置するジャマイカとキューバのコーヒーをご紹介します。
ジャマイカ
ジャマイカと言えば、日本人が大好きなブルーマウンテンの産地として有名です。本来は、法律で決められたブルーマウンテン山脈の 特定エリア(標高800~1,200mの地区)で栽培され、指定工場で精製処理された豆だけがブルーマウンテンを名乗ることができます。しかし実際には、日本国内でのブルーマウンテン販売量が、正規輸入量の3倍(※)という奇妙な事態に なっており、注意が必要です。香り高い高級豆の代表格。
※ 販売量と輸入量については、ウィキペディア「ブルーマウンテン」による
キューバ
キューバ産の珈琲の多くが日本に輸出されていることは、意外と知られていません。口当たりがよくマイルドで、酸味・苦み・コクのバランスがよい珈琲が多く、ジャマイカの気候に酷似した風土を持つため、ブルーマウンテンに似た味の珈琲が多いともいわれます。
注目度急上昇のアジア産珈琲
アジアの珈琲の代表と言えばインドネシアですが、 近年 アジアの諸地域で生産量が増大し、中でもベトナムやインドは、世界の珈琲生産量のBEST10に名を連ねる程、生産が盛んになっています。
珈琲の苦みを楽しみたい向きには欠くことのできないアジア産の珈琲から、インドネシアとベトナムの珈琲をご紹介します。
インドネシア
環太平洋火山帯の一部をなすインドネシアは、コーヒー栽培に適した火山灰の土壌が広がります。2017年には、年間66万トンを超えるコーヒーを生産し、世界第4位の生産国になっています。そんなインドネシアの珈琲と言えば、まず思い浮かぶのはマンデリンでしょう。スマトラ島のマンデリン族が大切に守り育てたこの珈琲は、強い苦みを持ちながらも口当たりはなめらかで、ほのかな甘みも感じられ、インドネシアを代表する高品質珈琲として知られています。他にも、トラジャや、ジャコウネコの糞からとれるコピ・ルアクなども高値で取引されています。
ベトナム
あまり知られていませんが、ベトナムは近年ブラジルに次ぐ珈琲生産国として、生産量世界第2位の地位を保っています。しかし、その生産品種はほとんどがロブスタ種で、高品質な豆はごく少なくインスタントコーヒーや缶コーヒーの原料として利用されています。しかしベトナム国内では珈琲文化が根付いており、練乳を加えて飲む独特なベトナムコーヒーは、ベトナムでは一般的な飲み物として愛飲されています。
産地の特徴を知り、好みに合った豆選びをしよう!
珈琲豆の五大産地について、大まかなところをご理解いただけたと思います。
今回ご紹介した主要産出国以外でも、珈琲栽培に適した風土を持つ多くの国で珈琲豆の栽培が行われていますし、新たな品種が登場することもあるでしょう。そんな時、その豆がどの地域で生産された豆かがわかると、大まかではありますが味の特徴を類推することができます。
今後、もし初めての豆に出会ったら、その豆の産地を手掛かりに、珈琲の風味を想像しながら豆を選んでみてはいかがでしょうか?新たな味に出会うとしても、産地を考慮できれば、「こんな味とは思わなかった!」というような大きな失敗は、避けられるはずです。
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